大判例

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福岡高等裁判所 平成9年(ネ)290号 判決 1998年7月21日

控訴人

ひまわり不動産有限会社

右代表者取締役

久冨保孝

右訴訟代理人弁護士

塩飽志郎

被控訴人

宗教法人日本神霊学研究会

右代表者代表役員

隈本確

右訴訟代理人弁護士

龍田紘一朗

小林清隆

魚住昭三

右龍田紘一朗訴訟復代理人弁護士

宮下和彦

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人の本訴請求を却下する。

三1  被控訴人は、控訴人に対し、金五〇〇万円及びこれに対する平成七年一〇月三一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  控訴人のその余の反訴請求を棄却する。

四  訴訟費用は、本訴反訴とも第一、二審を通じて六分し、その五を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。

五  この判決は、第三項の1に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の本訴請求を棄却する。

3  被控訴人は、控訴人に対し、金三〇〇〇万円及びこれに対する平成七年二月一七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は、本訴反訴とも第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。

5  第3項につき仮執行宣言

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

次のとおり補正するほかは、原判決の「第二 事案の概要」欄のうち二枚目表五行目から三枚目裏一行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二枚目裏四行目冒頭の「た」の次に「(以下「本件売買契約」という。)」を加え、同七行目の「土地の」を削除する。

2  同三枚目表六行目の「前記」を「本件」と、同七行目の「本件土地の右」を「民法一三〇条の条件の成就を妨害したというべきであるから、本件」とそれぞれ改め、同一〇行目の「できる。」の次に「仮に媒介契約が合意解約されたとしても、本件売買契約の成立には、仲介業者である控訴人の媒介行為が寄与していると評価できるから、控訴人は、媒介の依頼主である被控訴人に対して一定割合の報酬を請求することができる。」を加える。

3  同三枚目表末行から同裏初行までを次のとおり改める。

「(一) 控訴人と被控訴人との間に媒介契約はもともと成立していない。仮にそうでないとしても、被控訴人が控訴人の媒介行為による売買契約の成立を妨害したことはなく、媒介契約は、平成六年一二月六日に当事者間で合意解約された。

(二) 不動産売買の媒介契約が解約された後に売買契約が成立した場合において、その成立が仲介業者の寄与によるものと評価することができるときは、仲介業者に報酬請求権が発生するとしても、本件の場合、控訴人の媒介行為による売買の交渉は、売主の富士急行と買主の被控訴人との間で価格の開きが大きく、行き詰まりの状況にあった。したがって、右のとおり当事者間の合意により解約されたのであるが、その後に本件売買契約が成立したのは、売主と買主との別途交渉によって初めて価格面での合意に達したことによるものであるから、控訴人の媒介行為と本件売買契約の成立との間には、相当因果関係がない。

(三) 本件売買契約の成立後、控訴人は、売主の富士急行側から一二八〇万円の報酬を受領しているから、これによって、控訴人の被控訴人に対する報酬請求権は消滅したというべきである。

(四) 控訴人の報酬請求権の行使は、クリーン・ハンズの原則若しくは信義則に違反するから、許さるべきではない。」

第三  証拠関係

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四  当裁判所の判断

一  次のとおり補正するほかは、原判決の「第三 争点に対する判断」欄のうち三枚目裏三行目から五枚目表一〇行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三枚目裏三行目の「甲一、」の次に「三、」を、「五、」の次に「八、九の1ないし9、14ないし16、一〇、」を、「乙」の次に「一、」を、「四、」の次に「一四、」を、「一五、」の次に「一七ないし二三、」を、「証人西仙治」の次に「(原審及び当審)、同松岡幸三郎(当審)」をそれぞれ加える。

2  同四枚目表初行の「受けた。」の次に「また、そのころ、控訴人は、被控訴人に対し、右媒介交渉の手数料について売買代金の1.8パーセントとする旨の申し入れをした。」を加える。

3  同四枚目裏末行の「述べて、この」を「前言を翻して、右」と改める。

4  同五枚目表七行目の「坪単価」から同一〇行目までを次のとおり改める。

「坪単価を一六万五〇〇〇円とすることで合意に達した。その後、国土利用計画法上の本件土地取引の届出や本件土地の測量が行われた。また、本件土地の隣地の通行地役権の存在や電気、ガス、水道等の整備状況にも特に問題がないことが確認された。そこで、平成七年二月一六日に本件売買契約が締結された。

5  本件売買契約を媒介した富士急建設は、被控訴人から、その報酬として五〇〇万円を受領した。また、富士急建設は、控訴人に対し、これまでの媒介の経費ないし謝礼として八〇万円を支払ったが、控訴人は、その後国会議員等を通じて富士急行に圧力をかけた末、体面を重んじ紛糾を避けたいと願う富士急行から仲介手数料として一二〇〇万円を受領した。」

二  以上の認定事実に照らすと、控訴人と被控訴人との間において、平成六年九月末ころ本件土地売買の媒介契約が成立し、そして、右契約は、同年一二月六日、双方の担当者が売買契約成立の見込みがないとして、交渉の打ち切りを確認した時点で、合意解除されたものと認められる。

ところで、不動産売買の媒介契約が売買契約の成立前に合意解除された場合には、仲介業者が依頼者に対して報酬請求権を取得する理由はないが、後日目的の売買契約が成立をみるに至り、従前の売買の交渉とその後の売買の成立との間に相当因果関係が認められるときは、仲介業者は、依頼者に対し、右媒介行為が売買の成立に寄与した度合いに応じて、一定割合の報酬を請求することができるものと解するのが相当である。

そこで、右観点から本件をみるに、不動産仲介業者の媒介行為の内容は、一般に多岐にわたるが、特に価格の決定が最も重要な要素を占めるものと考えられるところ、前記認定の事実によれば、当初売主の富士急行が坪単価二〇万円を提示したのに対し、買主の被控訴人が坪単価一五万円を提示し、両者の価格には大きな開きがあった。しかし、控訴人の仲介によって、富士急行が坪単価を二〇万円から一七万五〇〇〇円まで漸次下げ、これに対し、被控訴人も、表向き一五万円を維持しながらも、担当者が一七万五〇〇〇円を検討する姿勢を示し、その価格差はかなり狭まっていた。そして、被控訴人が控訴人との媒介契約を解約した僅か約二週間後に、被控訴人と富士急行とが直接交渉の上、坪単価を一六万五〇〇〇円とする合意をし、その結果、本件売買契約が成立するに至っているのである。右のような価格決定の過程における控訴人の貢献に加えて、本件売買契約の成立後富士急建設から控訴人に対し謝礼が支払われていることや、富士急行が、第三者の不明朗な介入による結果ながら、曲がりなりにも正規の仲介手数料を支払っていることに鑑みると、控訴人の媒介行為と本件売買契約の成立との間には相当因果関係があるものと認めるのが相当である。したがって、被控訴人は、控訴人に対しその寄与の割合に応じた相当額の報酬を支払うべき義務があるものというべきである。

そこで、報酬額につき検討するに、媒介契約の解約当時、富士急行と被控訴人との間には価格になお開きがあって、さらに交渉を要する状況にあったこと、その価格交渉の過程で控訴人と被控訴人との媒介契約は合意解除され、その後の富士急行と被控訴人との直接折衝で急きょ価格面での決着が付いていること、右解約当時、本件土地の測量、国土利用計画法上の届出及び隣地の通行地役権の存在や電気、ガス、水道等の整備状況の確認について、問題があるという見通しではなかったが、なお相応の事務の処理を要する状況にあったこと、それに、本件売買契約を媒介した富士急建設が被控訴人から報酬として五〇〇万円を受領しているに過ぎないこと、その他本件に現れた諸般の事情を考慮すると、控訴人が被控訴人に対して請求し得る報酬額は、五〇〇万円をもって相当と認める。

三  被控訴人は、本件売買契約成立後、控訴人が売主の富士急行側から一二八〇万円を受領しているから、これによって、控訴人の報酬請求権は消滅した、また、控訴人の報酬請求権の行使は、クリーン・ハンズの原則若しくは信義則に違反するから、許さるべきでないと主張するが、前記認定事実に照らし、右主張は採用することができない。

四  以上によれば、控訴人の反訴請求は、被控訴人に対し報酬金五〇〇万円及びこれに対する履行の請求がされた後であることが明らかな平成七年一〇月三一日(本訴提起日)から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は失当というべきである。他方、被控訴人が控訴人に対して債務の不存在確認を求める本訴は、被控訴人に対して右債務の給付を求める控訴人の反訴と同一の訴訟物に関するものである。したがって、本訴請求は、裁判所が右反訴請求について本案判決をすることにより、確認の利益を失うことになるので、却下を免れない。

よって、被控訴人の本訴請求を全部認容し、控訴人の反訴請求を全部棄却した原判決を取り消し、本訴請求を却下し、反訴請求については、右限度でこれを認容し、その余を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六七条二項、六一条、六四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官小長光馨一 裁判官小山邦和 裁判官石川恭司)

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